インナーメーカー
 
今回は蘇勃沃瑪(上海)服飾貿易有限公司(SUPER WARM)の張社長にインタビューをさせていただきました。現在、インナー商品を扱っておられ、年商約4億、直営店10店舗、卸を含め約70店舗で販売されています。
香港では別会社で同ブランドの販売を行っており、張社長は上海を始め、中国全土でのSUPER WARMの商品の取り扱いをやっておられます。
今年8月からは独自のブランドを作り、出店計画を進めておられるとの事で、日本のアパレル(特に、ヤングカジュアル、レディースに関して)が出店するにあたって、どういう戦略が有効なのか、という事についてご意見を伺いました。


Q. 日本のアパレル企業が上海に進出するにあたってもっとも有効な方法はなんですか?
A. 上海に進出する方法としては、現在、中国での販売権を独自で獲得することはほぼ不可能です。販売の方法としては、
1,卸として商品を卸し、その後の販売については一切干渉しない方法
2,合弁企業をみつけ直で経営していく方法
3,貿易会社を設立してデパートを中心に、販売を委託していく方法
の3つがあります。やはり、この中で最も有効と思われるのは、2の信頼できる合弁先を探し、百貨店だけでなく、路面店も出店しながら独自のブランドイメージを作り上げていく方法でしょう。
中国では、WTO加盟後、かなり法整備もなされてきていますが、まだコネクションなどの人の役割が大きく、デパートに出店するにしても、有力なコネクションがあるかないかで、かなり大きな差が出てくると思います。
 
Q. 上海では地価が異常に高いという話も聞いたことがありますが。そこらへんについてはどうでしょうか?
A. 上海の淮海路など、ショッピングエリアとして有名なエリアで路面店をやろうと思うと、地価はかなり高いので、非常にリスクが大きくなります。平均的な地価の場所に店を出すとしても、15万元(約210万円)くらいをアベレージで売らないと採算が合いません。よほどブランド力のある所ならわかりますが、一般的に路面店から進出するのは、上海ではあまり得策とは言えません。
しかし、人件費は日本と比べると非常に安く、店舗運営費の中で占める割合も非常に小さいので、それ程コスト的な問題はないとは思います。ただ、気を付けなければいけないのは、店員のモラルの問題で、派遣などに頼らず、自社で採用して十分な教育を施した後に店舗に派遣するという形がいいと思います。
当社でも、百貨店を始め、すべての店員は本社で採用し、上海戸籍の人間であること、一定以上のモラルを持っていることなどを厳しくチェックした上で採用しております。
 
Q. 日本のブランドのイメージはどうですか?
A. 日本のブランドというと、我々がまず思い浮かべるのが、比較的価格の安いブランドで知名度も高い「ユニクロ」、それから早い時期から中国に来てやっている「イトキン」、最後に、伊勢丹に入っている比較的高級なブランドです。
伊勢丹などは、一般の人が行くような所ではなく、かなり所得の高い、ほんの一部の人だけが行く場所というイメージがあり、「Only」や「Esprit」のような200〜500元の価格帯で、上海の女の子の圧倒的な支持を受けている日本ブランドは今のところ見あたりません。また、その価格帯は、最も競争が厳しい所でもあるので、ユニクロのような生産背景があるのならば、50元〜200元くらいの価格帯で、そうでなければ伊勢丹のような、高所得者のみを狙った価格帯がいいのではないかと思います。知名度のない時点で、あえて最も競争の激しいその価格帯で進出するのは得策とは言えないと思います。
伊勢丹に関してですが、淮海路の伊勢丹は、2つの地下鉄駅の真ん中という厳しいポジションにありますので、かなり厳しいかと思いますが、それでも、南京西路にある店舗などは高所得者層の支持を得て、ある程度成功しているのではないでしょうか。今後、この辺りには、静安寺のそごう(5月オープン予定)、日本系ファッションフロアなどができていきますので、日本ブランドの発展の可能性はあると思います。
 
Q. 日本のブランドが進出するにあたり、当初は試験販売も含め、中国販売用に生産ラインを組むのが難しく、日本から商品を持ってくることになると思いますが、20%前後の関税率+17%の増値税を考えると、商品の価格は、かなり跳ね上がってしまいます。そこで、日本で動きの悪い商品や、アウトレットなどを中国に持ってきて、安く売るという方法が考えられますが、それについてはどう思われますか?
A. 携帯電話の業界で、日本企業が失敗した例はよく聞かれると思います。アパレルにしても同じで、日本ブランドとは言え、日本の最先端の流行を持ってこなければ、うまくいかないと思います。上海は、東京を超えるファッションの発信地になろうとしており、現実はまだそこまでついてきていませんが、あくまで最先端で勝負する意気込みがないと、激しい競争の中で生き残ってはいけないでしょう。
もうひとつ注意しなければならないのが、現地化政策です。今、若い女の子に圧倒的な支持を得ている「Only」でさえも、当初は本社デンマークを初めとしたヨーロッパのデザイナーのデザインだけでやっていこうとして失敗しています。「Only」の場合は、その教訓をいかして、香港や上海で優秀なデザイナーを採用し、現地の流行や感覚を取りいれた企画を立ち上げ、ブランドイメージ刷新することによって成功したと言われています。身体的な特徴や消費行動の特性を初めとする、現地でのマーケティングも必須です。現地化なくしては大きな成功は望めないでしょう。
 
Q. 8月にヤングカジュアルのブランドを立ち上げるそうですが、どのようなブランドを目指しておられますか?
A. やはり目標は、「Only」、「Esprit」です。価格も、同じく200〜500元という価格帯を狙っています。
 
Q. 百貨店などに進出した場合、どれくらいの売上が見込めますか?
A.

簡単に言うのは難しいですが、当社のSUPER WARMでは月間売上12万元(約168万円)をひとつの目安にしています。百貨店では販売を代行してもらうとなると、掛け率は60%後半程度、もしくは自社の店舗を入れ、売上に応じて支払う仕組みになっています。売上の悪い下位4店舗ほどは、容赦なく入れ替えされますので、そのへんは日本よりも厳しいかもしれません。また、中国人の購買行動の特性として、日本以上にセールスシーズンと通常との売上に差があることも十分考慮しなければなりません。近年、政府がクリスマス商戦やバレンタインデーなどのイベントを盛り上げようとしていますので、浸透も非常に早く、つい3〜4年前まではあまり見られなかったクリスマスツリーやサンタクロースも、今では当たり前になっています。
*セールスなども、バーゲンシーズンに百貨店ごとでやるのではなく、1年を通して割り引きセールを行ったり、独自でセールを行ったりということも多く見られます。
*中国では3割引ならば「7折」、2割引ならば「8折」という表示がされます。しかし、最近デパートなどで特に見られるのは、「200満就送50」(200元分買えば、50元分の商品券をプレゼント)といったセールス方法が一般的で、よく見られます。

 
Q. 什器などはどうやって調達されるのですか?
A. 設計などはある程度お金をかけて優秀な人にやってもらいますが、作るのは、自ら郊外の工場に図面を持って出向いて作ってもらいます。その方が圧倒的に安く済むからです。日本系の企業などに依頼すると、6倍〜10倍くらいの値段になってしまうのではないでしょうか。20万元(約300万)前後はかかると思います。結局、作る工場は郊外の工場なのですから、安く作りたいならば自ら郊外まで足を運ぶことですね。もちろん、品質のリスクは自分で負うことになるので、現場に出向いて品質チェックをする必要があります。
. インタビューを終えて
. 張社長は、まだ20代後半の若手の社長で、ゆっくりとした口調で、親切に色々と説明して下さいました。
生粋の上海人で、インタビューは通訳を通して上海語で行ったため、詳細のニュアンスはうまくやりとりできなかったかもしれませんが、あっという間の1時間でした。若い元気のある企業で、今後の展開も気になるところです。どうもありがとうございました。